(判例)育休復帰後の降格・調整手当打切りは違法?

育休不利益取扱いによる損害賠償等請求事件( R8.3.27 津地裁判決)


◇事件の概要◇

本件は、被告に雇用され、店長の役職にあった原告が、育児休業(以下、「育休」ともいう。)終了に際し、副店長職で復帰し、その後3か月間、店長職との基本給の差額分に相当する調整手当の支払があったものの、その後相当期間経過しても店長には任命されず、調整手当も打ち切られたことにつき、被告に対し、被告が育休を理由とした不利益取扱いをしてはならない義務に反したもので、給与減額は無効であるとして、賃金請求権に基づく未払賃金及び遅延損害金を請求すると共に、被告の上記行為は不法行為にも当たるとして、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、慰謝料等及びこれに対する年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。


◇前提事実◇

(1)当事者等
ア 被告は、電気通信事業法による通信事業者の通信機器販売及び電気通信サービスの加入手続きに関する代理店業務等を目的とする、昭和52年設立の株式会社である。

イ 原告は、平成26年6月に被告に就職し、令和8年2月末をもって被告を退職した者である。

(2)原告の育休取得及びその後の待遇変更
ア 原告は、令和5年当時、被告のc店店長であり、職位はSM2、基本給は月額24万2000円であったところ、同月、第2子が誕生したことにより、同年6月から育休を開始した。

イ 原告は、令和6年5月、上記店舗の副店長として職場復帰した。その際、原告の職位はSM1に降格し、基本給は、月額21万9500円となったが、同時に、月額2万2500円の調整手当を受給するようになった。

ウ 同年7月分(同年8月10日支給)をもって、原告に対する上記調整手当の支給が終了した。


◇判例のポイント◇

原告を、本件育休後、副店長として復帰させ、相当期間経過後も店長職に就かせないこと(以下、「本件措置」という。)が、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、「法」という。)10条に反し、違法・無効となるか否か

【原告の主張】

ア 被告による本件措置は、育休からの復帰時において店長職に空きがないことを理由として原告を店長職に就けないものであり、これは、法10条が禁止する育休をしたことを理由とする不利益取扱いに当たる。したがって、給与減額は無効であり、原告は差額賃金の請求権を有する。のみならず、被告による本件措置は、不法行為にも当たる。

イ 被告は、原告の行動評価及び業績評価が低かった旨の主張をするが、被告の指摘する原告の行動の問題点はいずれも当該事実自体がない上、そのような指摘や指導を受けたこともない。また、業績評価は、賞与査定のためのものであり、店長職に復帰させるか否かについてこれを持ち出すこと自体が被告の制度に反する。なお、原告の勤務する店舗は、社内目標自体が低い部類であり、店舗業績は規模や場所にも左右されるのであるから、店舗業績は個人の資質に直結する問題ではない。

【被告の主張】

ア 法10条は育休後の原職復帰を義務付けるものではなく、復帰後、原職とは異なる職務や場所に配置する業務上の必要性がある場合には、不利益取扱いに該当しない。育休取得者の休職期間中に、その役職を代替する従業員がいなければ円滑な業務遂行はできないが、休職から復帰したからといって代替従業員を簡単に異動させられるはずがなく、休職する社員が相当期間、原職に復帰できないことは当然に予想され、甘受すべきである。また、被告においては、社内規定に則り、原告も含めた育休取得者に対し、事前に、復帰時の職位は必ずしも保証されず、職位が下がった場合は3か月間、調整手当の支給により、給与差額を補償することを説明している。

イ 原告は、店長として店舗スタッフを統率し、営業目標に向けて活動すべき立場であったにもかかわらず、他の従業員に対し、被告の営業目標設定が悪いと話したり、有給休暇の取得ルールにつき、独自の解釈をして、被告の方針と異なる説明をしたり、被告が人事制度の相談をしている社会保険労務士は不祥事を起こしたことがあるなどと不確かな情報を伝えたりした。また、原告が副店長を務める店舗は、2期連続で下から3番目の評価であり、エリア内ワースト2位であるなど、業績評価も低かった。
 そのため、被告としては、原告の店長職への復帰は難しいとの判断になった。

ウ 現在の配置は、周辺エリアの店舗に関し、適材適所となるよう検討の結果決定されたものであり、原告の育休取得を理由とするものではないし、その点を措いたとしても、業務上の必要性から判断されたものであって、法10条に反しない特段の事情があるから、無効ではなく、不法行為にも該当しない。

【裁判所の判断】

ア 原告は、本件育休からの復帰時に、店長から副店長に降格となったところ、これは、育休を契機とした不利益な取扱いにあたるため、例外的に法10条に反しないといえるための上記特段の事情が認められるかが問題となる。

イ まず、降格後の原告の業務の性質や内容は、現場店舗の管理業務という点では基本的に同質とも思われるものの、立場が異なることによる責任や権限の差異があるほか、店舗スタッフの評価等の人事管理業務の有無の点において顕著に異なるものとみられる。

ウ 次に、職場の組織、業務態勢及び人員配置の状況についてみると、店長は、その性質上、各店舗に1名を配置することが必要・十分であるところ、被告としては、育休からの復帰者の異動可能店舗に制約があること、その時点の職場の組織・業務態勢及び人員配置の状況との関係で、原告を、育休からの復帰直後に店長とすることが事実上困難な場合があることは認められ、実際、原告の復帰時点においてもそうであったと認められる。しかし、復帰後3か月を経過しても、なお原告を店長職ないしは店長相当職に戻す対応ができないほどの業務運営上の支障が継続していたかは疑問であり、仮に、真にそれが継続していたのであれば、3か月で調整手当の支給を止めることの合理性に疑問がある。
 なお、被告は、復帰時に原職相当ポストに空きがない場合、ブランク期間後の行動評価においてA評価をとらない限り、原則として店長に復帰することはないが、逆に、改めて人事評価でAを連続2回取得する必要はなく、常に店長候補者として人事配置がされている旨主張する。しかし、上記運用が、原職復帰に対する事実上の制約となることは明らかであり、直近で、SM1級でA評価を連続2回取得した者と同一条件下での競争となること自体、育休を取得していないSM2級の者との間で不利益な扱いとなることは言うまでもない。
 そもそも、被告においては、降格は、行動評価が半期連続2回D評価であった場合になされるものであり、育休復帰時に降格することは、それ自体、被告の規定にも反する。

エ さらに、原告は、就職から1年5か月で副店長代行となり、その後5か月で副店長となり、その後1年で店長代行となり、その後6か月で店長となった後、複数の店舗の店長を歴任したものであって、店長としての知識及び経験もある上、その経歴からすれば、被告としても、原告の将来に期待してきたことがうかがわれる。また、直近の行動評価もB評価が続いていた上、本件育休から復帰した直後の評価シートにおけるコメントを踏まえても、被告が主張する店長として不適格な事情も認められない。
 被告は、直近の行動評価において、原告には、店長として不適格な事情が複数みられた旨を主張するが、その主張する事実は立証されておらず、当該事実に係る指摘や指導があったことは、評価シートにも何らの記載もない。なお、仮に被告の主張する事情が認定されたとしても、これをもって本件措置をとったことが、正当化されるものではないが、そもそも、被告は、原告の行動評価を正当な根拠なく認定し、これを原告に伝えることもせず、事実上の偏見をもって原告を処遇したことが強く疑われるのであり、評価の前提となる事実の信用性及び評価自体の公正性にも極めて大きな疑問がある。

オ 加えて、被告としては、法21条、22条の規定の趣旨・目的を十分に踏まえた職場体制整備を事前にすべきであったところ、被告は、原告の職場復帰の時期をあらかじめ把握していながら、復帰後の配置ないし労働条件について、事前に検討していた様子はなく、原告への周知もしていない。これらの事情によれば、被告が、育休後の就業が円滑に行われるよう、雇用管理等に関し必要な措置を講じていたとはいえない。

カ 以上のとおり、原告の本件育休復帰後の配置における業務の性質や内容、配置後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、原告の知識や経験等を勘案した上、被告における態勢の不備を前提とすると、本件措置が、店長併存を避けるための職務遂行上やむを得ない措置として、必要なものであったとはいえない。

キ また、本件措置により原告の受けた不利な影響の内容や程度は、店長職の地位と手当等の喪失という重大なものである上、本件措置は、調整手当受給期間経過後も店長職への自動的な復帰を予定していない降格であり、本件措置後の被告の対応に鑑みれば、原告の将来的な原職復帰の客観的可能性も低いものと見ざるを得ず、不利な影響の程度も大きい。

(3)小括
 以上の事情によれば、本件措置が、法10条の趣旨に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在は認められない。
 したがって、被告が、原告に対する調整手当の支給を打ち切った上、遅くとも令和6年9月1日に、原告をc店店長としなかったことは、法10条に反するものと言わざるを得ない。



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