(判例)自宅待機命令中の未払給与等支払請求

自宅待機命令中の未払給与等支払請求に関するについて紹介をしたいと思います。
甲賀市事件 大津地裁(令和2年10月6日)判決


◇事件の概要◇
本件は,X市の市職員であったYが、選挙の開票事務における不正行為を理由とする自宅待機命令を受けてから懲戒免職処分がされるまでの間、その期間の給与が支払われなかったとして,Xに対し、未払給与7,003,377円+遅延損害金の支払を求める事案である。


◇前提条件◇
・不正行為が発覚し、広く報道されることとなった。Xは、Yに対し、本件不正行為を理由として、自宅待機を命じられた。
・自宅待機に応じた服務規律を遵守することと記した自宅待機命令書が交付されたが、Xにおいて、職務命令として、無給の自宅待機命令を発することができると定めた法律や条例上の根拠はない。
・自宅待機命令がされた一部の期間は、年次有給休暇の取得がされた取扱いがされ、この期間中は,XからY
に対し,管理職手当を除く給料等の支給がされた。しかし、XからYに対し、一部の手当を除き給料等の支給がされなかった。
・Yは、公職選挙法違反の罪により罰金50万円に処するとの略式命令を受けた。Xは、Yを懲戒処分としての免職処分とした。
・Yへは、給料、管理職手当、地域手当、勤勉手当などがもともとは支給されていた。


◇判例のポイント◇
①年次有給休暇期間分の管理職手当について

 Yは、その期間全日数にわたって年次有給休暇を取得したものと扱われていたこと,及び,Yは,遅くとも人事課長作成の事務連絡を受領するまでにその取扱いを認識したが、何ら異を唱えるなどしていないことが認められる。これらの事情からすれば,Yは,上記の年次有給休暇の取得をする黙示の意思表示をしていたと推認される。そうすると,Xが,平成30年3月分の管理職手当を支給しなかったことは,定めに従うものとして相当である。

②年次有給休暇期間後の給料等について
1⃣給料及び地域手当について
・Xは、年次有給休暇期間後、Yは勤務をしていないから,給料を支給する理由がない旨主張する。
 しかし、Yは、本件自宅待機命令が出されたことを踏まえ、同命令に従った自宅待機をするとともに、地方公務員の兼業禁止規定に従い、他の仕事に就くことをせずに過ごしていたことが認められる。このような場合、Yは、Xの服務規律に従い、Yがした職務命令に従った対応をしているのであるから、YとXの任用関係に基づく労務の提供をしたと認めるのが相当であり、仮に、Yが具体的な労務の提供をしていないとしても、それはXが自宅待機中になし得る労務をYに与えなかった結果にすぎないというべきである。
 したがって,Xの主張は採用することができず,Yは,Xに対し、年次有給休暇期間後、給料請求権を有していると認められる。そして、全趣旨からすれば、当該給料を前提とした場合,Yに支給されるべき地域手当は、同月以降、同額の地域手当請求権を有していると認められる。
・ところで,Yは,本件においては、緊急にして合理的な理由に基づき本件自宅待機命令を出したのであるから、XはYに対する給料等支払義務を免れる旨の主張もし、当時、本件不正行為を巡る問題が社会に与えた影響が大きかった。
 しかしながら,本件自宅待機命令が,Yの被告に対する給料請求権を失わせる効果をもたらすものというのであれば、それはYに対する不利益処分として,地方公務員法29条4項に従って、法律や条例で定めなければならないのであるが、職員が無給となる自宅待機命令について定めた法律や条例上の根拠はない。法律や条例上の根拠がないまま、事実上、懲戒処分と同様の効果をもたらす措置を講じることは許されず、そのことは,Xが指摘するように本件不正行為を巡る社会的影響が大きかったという事情があったことによって左右されるものといえない。そして,他に,XのYに対する給料等支払義務が減免されることを正当化させる事情は見当たらない。

2⃣管理職手当について
 Xは、年次有給休暇期間後、Yは勤務をしていないから,管理職手当を支給する理由がない旨主張する。
 しかし、Yが、Xの服務規律に従い、Xがした職務命令に従って任用関係に基づく労務の提供をしたと認めるのが相当であることは,認定説示したとおりである。したがって,Xの上記主張は採用することができない。
 そして、Xが、当時、総務課長の地位にあったところ、年次有給休暇期間後、Yに対する降格処分等がされたという証拠はない。以上を前提に、趣旨からすれば、Yに支給されるべき管理職手当は、同月以降、同額の管理職手当請求権を有していると認められる。

3⃣勤勉手当について
 趣旨によれば、Yにおける勤勉手当は、勤勉手当基礎額に、任命権者が条例及び規則所定の範囲で定める成績率を乗じた金額が支給されること、Xがした本件不正行為の内容等を踏まえ、任命権者であるX市長は,Yの成績率をゼロと定めたことが認められる。 
 この点,Yは、Yが自宅待機という労務の提供をした以上、成績率をゼロと定めることが許されない旨の主張をする。しかし、本件不正行為が、公正な選挙を妨げ、民主主義の根幹を揺るがす犯罪行為であり、Yが管理職員でありながら本件不正行為を行ったことからすれば、任命権者であるX市長がした上記の成績率の判断が、裁量権の逸脱ないし濫用に当たるということはできない。
 したがって,Yが,年次有給休暇期間後、勤勉手当請求権を有していると認めることはできない。



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