
損害賠償請求事件 東京地方裁判所 (令和7年3月6日判決)
◇事件の概要◇
本件は、医師が勤務先である病院に対して労働基準法違反の是正を申し入れたことを契機に、担当患者がゼロにされ、最終的に診療行為自体を行えなくなったというケースに関する損害賠償請求事件です。
◇判決の要旨◇
裁判所は、原告医師が勤務先の病院に労働基準法39条違反(有給休暇の未付与)を是正するよう申し入れたことを契機に、病院側が患者の割当を実質的にゼロとした行為について、不法行為に該当すると判断しました。
判決内容(主文抜粋):
◇事件の背景◇
原告は非常勤医として週1回、午後の内科外来を担当する雇用契約を被告医療法人と締結。契約書には「有給休暇:無」と明記されており、これは労働基準法第39条に違反するものでした。
原告は令和5年2月に病院側へ是正を求め、その後労働基準監督署にも通報。結果として、病院側は「有給休暇:有(1日)」と修正した契約を提示しました。
しかしその後、原告の診療患者数は激減し、8月以降は完全に「ゼロ」となりました。加えて、診察室を他の医師に使用させて原告を入室できなくする等の対応も見られました。
◇ 裁判所の判断ポイント◇
1. 有給休暇の未付与について(不法行為1)
労働基準法違反の契約内容ではあったものの、契約書に明記されており、原告が自ら是正を申し入れた後、病院側がすぐに修正したことから「社会的相当性を逸脱した」とまではいえず、不法行為は成立しないと判断されました。
2. 診療ゼロ・診察室使用妨害(不法行為2)
裁判所は、原告が是正を申し入れた後に急激に患者数が減り、ついには診療行為が完全に停止された状況について、裁量判断の結果を超えた、事実上原告の診療を禁止する懲戒処分類似の行為をしたものといわざるを得ない、と判断。
少なくとも、被告病院において原告に対する割当患者数が0人となった令和5年8月15日以降において、民法上の不法行為が成立するものと認められました。
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