
先日厚生労働省により公表された2020年度に労災認定された原因のうち、仕事が原因でうつ病などの精神障害を患った件数は前年度比99件増の608件でした。
原因別では「パワーハラスメント」が99件で最も多く、パワーハラスメントによる自殺なども近年社会問題化してきています。
ハラスメント対策に対する企業の対応義務化については、平成11年に職場におけるセクシュアルハラスメントの防止措置について義務化、平成29年1月からは、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて義務化、さらに令和2年6月(中小企業は令和4年4月)からは、パワーハラスメントについて義務化されており、この3つのハラスメント対策について、簡単にまとめてみました!
〇「職場」とは・・・
労働者が通常働いているところはもちろんのこと、出張先や実質的に職務の延長と考えられるような宴会なども職場に該当します。
〇「労働者」とは・・・
正社員だけではなく、契約社員、パートタイム労働者など、契約期間や労働時間にかかわらず、事業主が雇用するすべての労働者です。
また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、派遣先事業主も、自ら雇用する労働者と同様に取り扱う必要があります。
1⃣職場におけるセクシュアルハラスメント
「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。
〇「性的な言動」とは・・・
性的な内容の発言や性的な行動のことをいいます。
(性的な内容の発言の例)
性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(うわさ)を流すこと、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すことなど
(性的な行動の例)
性的な関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつ図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為、強姦など
〇セクシュアルハラスメントの行為者とは・・・
事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者、学校における生徒なども行為者になり得ます。男性も女性も、行為者にも被害者にもなり得ます。
また、異性に対するものだけでなく、同性に対する性的な言動もセクシュアルハラスメントになります。
被害者の性的指向や性自認に関わらず、性的な言動はセクシュアルハラスメントに該当します。
※性的指向:人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするか
※性自認:性別に関する自己認識
2⃣職場における妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメント
従来から男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法は、事業主による「妊娠・出産」「育児休業・介護休業等の申出や取得等」を理由とする解雇等の不利益取扱いをすることを禁止していますが、この「不利益取扱い」とは別に、「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業・介護休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることをいいます。
いわゆる、マタニティハラスメント(マタハラ)、パタニティハラスメント(パタハラ)、ケアハラスメント(ケアハラ)と言われるものです。
〇妊娠・出産・育児休業等ハラスメントに該当しない例・・・
「業務上必要な言動」はハラスメントに該当しません。ただし、労働者の意を汲まない一方的な通告はハラスメントとなる可能性があります。
・制度等の利用を希望する労働者に対して、業務上の必要性により変更の依頼や相談をすることは、強要しない場合に限りハラスメントに該当しません。
・妊婦本人はこれまで通り勤務を続けたいという意欲がある場合であっても、客観的に見て妊婦の体調が悪い場合に、業務量の削減や業務内容の変更等を打診することは、業務上の必要性に基づく言動となり、ハラスメントには該当しません。
3⃣職場におけるパワーハラスメント
職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
〇「優越的な関係を背景とした」言動とは・・・
業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。
(例)
・職務上の地位が上位の者による言動
・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
〇「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは・・・
社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。
(例)
・業務上明らかに必要性のない言動
・業務の目的を大きく逸脱した言動
・業務を遂行するための手段として不適当な言動
・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
〇「就業環境が害される」とは・・・
当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
4⃣事業主が講ずべき措置
〇事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
・ 職場におけるハラスメントの内容・ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
・ 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
〇相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
・ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
〇職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
・ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
・ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
・ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
・ 再発防止に向けた措置を講ずること
〇職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景となる要因を解消するため、業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること(派遣労働者にあっては派遣元事業主に限る)
〇併せて講ずべき措置
・ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
・相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
まだハラスメント対策を対応できていない場合には、上記ポイントをもとに対応されることをおすすめします!
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