在宅勤務手当について、割増賃金の算定基礎から除外することができる場合を明確化するため、在宅勤務手当が実費弁償と整理され、割増賃金の基礎となる賃金への算入を要しない場合の取扱いが示されました。
①割増賃金の基礎となる賃金とは?
労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「法」という。)第37条第5項及び労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号。以下「則」という。)第21条により、割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金及び一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金とされている。
在宅勤務手当については、労働基準関係法令上の定めはなく、一般的には法第37条第5項及び則第21条に規定する賃金に該当しないと考えられるため、当該手当が法第 11 条に規定する賃金に該当する場合には、割増賃金の基礎となる賃金に算入されることとなる。
一方、各企業において支給される在宅勤務手当が、以下の②及び③に照らして、事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると整理される場合には、当該在宅勤務手当については法第 11 条に規定する賃金に該当せず、割増賃金の基礎となる賃金への算入は要しないこととなる。
②実費弁償の考え方
在宅勤務手当が、事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると整理されるためには、当該在宅勤務手当は、労働者が実際に負担した費用のうち業務のために使用した金額を特定し、当該金額を精算するものであることが外形上明らかである必要がある。
このため、
・就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示される必要がある
・当該計算方法は在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法である必要がある
例えば、従業員が在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないもの(例えば、企業が従業員に対して毎月5,000円を渡切りで支給するもの)等は、実費弁償に該当せず、賃金に該当し、割増賃金の基礎に算入すべきものとなる。
③実費弁償の計算方法
在宅勤務手当のうち、これらが事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると整理されるために必要な「在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法」としては、以下の方法などが考えられる。
(1)別添の国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」(以下「国税庁FAQ」という。)で示されている計算方法
(2)(1)の一部を簡略化した計算方法
通信費(電話料金、インターネット接続に係る通信料)及び電気料金については、在宅勤務手当の支給対象となる労働者ごとに、手当の支給月からみて直近の過去複数月の各料金の金額及び当該複数月の暦日数並びに在宅勤務をした日数を用いて、業務のために使用した1か月当たりの各料金の額を(1)の例により計算する方法。
この場合は、在宅勤務手当の金額を毎月改定する必要はなく、当該金額を実費弁償として一定期間継続して支給することが考えられる。
ただし、この取扱いは、当該在宅勤務手当があくまで実費弁償として支給されることを前提とするものであることから、②の考え方に照らし、常態として当該在宅勤務手当の額が実費の額を上回っているような場合には、当該上回った額については、賃金として割増賃金の基礎に算入すべきものとなることに留意する必要がある。
(3)実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法
在宅勤務手当を実費の一部を補足するものとして支給することは、それが実費の額を上回らない限りにおいて、実費弁償になると考えられる。このため、実費の額を上回らないよう1日当たりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定めた上で、当該単価に在宅勤務をした日数を乗じた額を在宅勤務手当として支給することは、実費弁償に該当するものとして差し支えない。
「実費の額を上回らないよう1日当たりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定め」る方法として、通信費及び電気料金については、例えば、次のアからウまでの手順で定める方法が考えられる。
ア 当該企業の一定数の労働者について、国税庁FAQ問6から問8までの例により、1か月当たりの「業務のために使用した基本使用料や通信料等」「業務のために使用した基本料金や電気使用料」をそれぞれ計算する。
イ アの計算により得られた額を、当該労働者が当該1か月間に在宅勤務をした日数で除し、1日当たりの単価を計算する。
ウ 一定数の労働者についてそれぞれ得られた1日当たりの単価のうち、最も額が低いものを、当該企業における在宅勤務手当の1日当たりの単価として定める。
なお、アの「一定数」については、当該単価を合理的・客観的に定めたと説明できる程度の人数を確保することが望ましい。また、例えば、「一定数の労働者」を当該単価の額が高くなるよう恣意的に選んだ上で当該単価を定めることは、当該単価を合理的・客観的に定めるものとは認められず、当該単価を基に支給された在宅勤務手当も、実費弁償には該当しない。
【参考URL】
厚生労働省|割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて
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