(判例)虚偽の届出による通勤手当・生理休暇の不正取得を理由とする懲戒処分に関する事例

大阪府・大阪府教委事件 大阪地裁(令和5年9月28日)判決


◇事件の概要◇

本件は、大阪府の公立高等学校の教員である原告が、処分行政庁である大阪府教育委員会(以下「府教委」という。)から3月間の停職を命ずる旨の本件処分を受けたため、被告を相手に、本件処分の取消しを求める事案である。


◇前提条件◇

・本件処分に至る経緯等

ア 原告は、令和2年4月1日から、育児休業から復帰して本件高校に出勤するとともに、同日を事実発生日として、当時の自宅最寄駅の阪急電鉄(以下「阪急」)G駅から、本件高校最寄駅の近畿日本鉄道(以下「近鉄」)H駅まで公共交通機関を利用して通勤する旨の通勤経路を届け出て認定を受けた。
 原告は、同月15日、同認定に基づき、6か月あたり11万9100円の通勤手当を受給した(原告本人)。

イ 原告は、8月17日及び10月30日、生理休暇を取得した。

・本件処分

 府教委は、令和3年3月26日、原告に対し、要旨以下各行為が全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であり、その職の信用を著しく失墜させるものであるとして、地方公務員法(以下「地公法」)29条1項1号及び3号により、停職3月間の本件処分をした(甲1)。

[本件処分事由1]
原告は、4月から6月までの間、認定外の自動車で通勤を行った上、故意にその届出を怠り、通勤手当を不正に受給し、また、この間、校長等から再三にわたり指導を受けたにもかかわらず、7月13日までの間、認定外の自動車での通勤を継続した。

[本件処分事由2]
原告は、8月17日及び10月30日に勤務を休んだ際、自ら運転し、買い物等に出かけるなどしたにもかかわらず、8月20日及び11月4日に生理休暇に係る虚偽申請をし、計6時間7分、同休暇を不正に取得した。


◇判例のポイント◇

<本件処分事由1の有無について>

【被告の主張】

ア 通勤手当の支給要件は、通勤のため交通機関等を利用してその運賃等を負担することを常例としていることとされており、「常例」とは、届出経路による利用回数が通勤回数の1/2以上であることと解されている。
 原告は、電車を利用する経路での通勤認定を届け出て認定を受けていたところ、出勤した4月中の3日及び5月中の3日にはいずれも自動車通勤をし、7月13日まで認定外の自動車通勤を継続した。したがって、原告は、4月1日から7月13日までの間、認定を受けた公共交通機関ではなく、認定外の自動車通勤をし、4月分~6月分の通勤手当を不正に受給した。

イ D校長は、6月16日、19日、7月1日及び13日、原告に対して通勤手段について事情を聴くとともに注意指導をした。

【原告の主張】

ア 原告は、4月9日以降、職務専念義務を免除されており、通動したのは同月1日、6日及び8日、5月15日、25日及び29日の合計6日のみであった。したがって、これらの日を除いた日に対応する通動手当の返還義務があることは別論として、本件処分事由1について、上記期間を通じて通勤手当を不正に受給したとの点は事実誤認である。

イ 原告がD校長らから認定外の自動車通勤を行っていることを注意されたのは、6月19日の一回のみであるから、本件処分事由1はこの点について事実誤認がある。

【裁判所の判断】

 認定事実によると、原告は、4月1日、鉄道を利用して通勤する旨の通勤経路の届出をして認定を受け、同認定に基づき、同月の給与支給日に、同日から9月30日までを支給対象期間とする通勤手当11万9100円の支給を受けたにもかかわらず、4月1日以降、上記認定外の通勤方法である自家用車で通勤をし、その間、6月16日、19日及び7月1日にD校長らから通勤方法について確認を受け、自家用車での通勤をしないよう注意喚起されたにもかかわらず、7月13日まで自家用車での通勤を継続したことが認められる。
 そうすると、本件処分事由1に該当する事実を認めることができ、原告は、職員の通勤手当に関する規則2条1項に反して、虚偽の届出をして通勤手当を不正に受給したものである。
 したがって、本件処分事由1は、上記規則に反するほか、教育公務員の職の信用を傷つけるとともにその職全体の不名誉となる行為であるから、地公法33条に反し、これにより同法29条1項1号に該当するというべきである。また、以上に説示したところによれば、本件処分事由1は、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行というべきであるから、同項3号に該当する。

 

<本件処分事由2の有無について>

【被告の主張】

ア 生理休暇の取得要件は、女性である職員が生理のために勤務が著しく困難である場合であるところ、原告が、8月17日の墓参りや10月30日の買い物のために外出していた時間については、生理のために勤務が著しく困難であったとは認められない。その時間は、8月17日については午前11時30分から午後1時30分までの2時間1分間から昼休み時間45分を除いた1時間16分、10月30日については午前11時20分から午後4時55分までの5時間36分間から昼休み時間45分を除いた4時間51分である。原告は、上記2日のうち合計6時間7分について、生理休暇を不正に取得した。

イ また、原告は、その後、上記両日の生理休暇を取り消して年休申請を行ったが、これによって、生理休暇の不正取得をしたという非違行為の事実がなくなるものではない。

【原告の主張】

ア 月経期間中の体調には波があるから、勤務は著しく困難であっても、一時的な外出程度であれば可能なことも多い。したがって、原告が生理休暇中に外出していたという事実だけをもって生理休暇を不正取得したとはいえない。

イ 原告は農業科の教諭であるところ、その業務の大部分が校内の農場での栽培管理であり、これらの作業は立位又は中腰で行うことも多く、肉体的負担が非常に大きいし、生徒に対する指導監督等の勤務による精神的負担も相当程度ある。

ウ 以上のとおり、原告が取得した上記各日の生理休暇は取得要件を欠くものではないから、本件処分事由2には事実誤認がある。

【裁判所の判断】

ア 8月17日について
 認定事実によると、原告は、同日、本件高校に出勤せず、原告の母を同乗させて自動車を運転し、午前11時30分頃から午後1時30分頃まで、高速道路を走行するなどして墓参りをして帰宅し、同月20日、同月17日について生理休暇を取得する旨の届出をして生理休暇を取得したことが認められる。
 上記のような原告の行動に照らすと、原告は、同日の所定就業時間(午前9時30分から午後4時まで)のうち、午前11時30分頃から午後1時30分頃までの2時間1分間から昼休み時間の45分を除いた1時間16分について、相当な時間自動車を運転して移動して私的用件をしていたことからすると、「生理のため勤務が著しく困難である場合」とはいえないから、生理休暇を不正に取得したというべきである。

イ 10月30日について
 認定事実によると、原告は、同日、本件高校に出勤せず、自動車を運転し、午前11時20分頃から午後4時55分頃までの間、高速道路を走行するなどして自動車を運転して神戸の商業施設で飲食や買い物をして帰宅し、11月4日、10月30日について生理休暇を取得する旨の届出をして生理休暇を取得したことが認められる。上記のような原告の行動に照らすと、原告は、同日の所定就業時間(午前9時30分から午後4時まで)のうち、午前11時20分から午後4時までの4時間40分間から昼休み時間の45分を除いた3時間55分については、生理休暇の要件である「生理のため勤務が著しく困難である場合」とはいえないから、生理休暇を不正取得したものというべきである。

ウ まとめ
 以上のとおり、本件処分事由2に該当する事実は、8月17日に1時間16分、10月30日に3時間55分(合計5時間11分)の生理休暇を不正取得した限度で認められる。そして、同事実は、職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例15条5号所定の要件を欠くにもかかわらずこれがある旨の虚偽の申請をして休暇を不正に取得したものである。
 そうすると、本件処分事由2は、教育公務員の職の信用を傷つけるとともにその職全体の不名誉となる行為であるから、地公法33条に反し、これにより同法29条1項1号に該当するというべきである。また、以上に説示したところによれば、本件処分事由2は、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であるから、同項3号に該当するというべきである。

 

<処分量定に関する裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無について>

【裁判所の判断】

ア 本件処分事由1は、虚偽の届出をして通勤手当を不正に受給したものであり、その標準的な懲戒処分の種類は減給又は停職である。原告は、当初、虚偽の届出をして6か月分の公共交通機関の利用による通勤手当を受給し、その後、通勤経路を変更したものの、虚偽の届出による通勤期間は約3か月半にわたり、少なくとも不正受給した通勤手当の金額は約6万円と相応の金額である。加えて、原告は、D校長らから何度も自動車通勤をしているのではないかと問い質されても、電車で通勤しているとか兄に送迎してもらったなどと場当たり的に虚偽の説明を繰り返して発覚を免れようとし、自動車通勤をしていたことを認め、これを止めるよう指導を受けた後も通勤認定を受けないまま自動車通勤を続け、その後も府教委に対して当初は鉄道を用いて通勤し、その後は兄に送迎してもらった旨の虚偽の報告書を提出しており、本件処分事由1の発覚後の対応は悪質であって、真摯に反省する態度は見られない。原告が、本件処分後に不正受給した通勤手当相当額を返納したことを考慮しても、本件処分事由1は、行為態様や結果、行為後の事情のいずれにおいても悪質かつ重いものといえる。

イ 次に、本件処分事由2は、3か月間に2回、生理休暇の要件を欠くにもかかわらず、虚偽の申請を繰り返し行って同休暇を不正に取得したものであり、その標準的な懲戒処分の種類は停職又は免職である。そして、本件処分事由2は、いずれも不正取得した休暇中に自動車を運転して遠方まで移動して墓参りや商業施設での買い物等をしたものであり、その動機に酌むべき点はなく、短期間で同種行為を繰り返しており、違反の程度は芳しくない。加えて、原告は、本件処分事由2以前にも、同種行為をしたことを認めており、同種事案に及んでいたことが認められる。そして、原告は、府教委による事情聴取において、商業施設に出かけた際に、飲食をしていたにもかかわらず、飲食をしていないと述べるなど、真摯に反省する姿勢は見られない。
 以上によれば、非違行為として認定された休暇の不正取得の回数が2回にとどまっており、事後的に生理休暇の申請を撤回し、年次有給休暇の取得手続を履行したことを考慮しても、本件処分事由2は、その標準的な懲戒処分の種類よりも軽い懲戒処分をすべき事情を見い出すことはできない。

ウ 以上によれば、本件処分は,標準的な懲戒処分の種類を減給又は停職とする本件処分事由1及び停職又は免職とする本件処分事由2を理由とするものであるところ、本件処分事由1は、行為態様や結果、行為後の事情のいずれにおいても重いものといえ、本件処分事由2について軽い懲戒処分をすべき事情を見出すことはできないことからすると、停職3月間を選択した処分量定について裁量権の範囲の逸脱又は濫用はない。



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