(判例)担当業務によって貯まったポイントの私的費消を理由とする解雇が有効とされた事例

中央建物事件 大阪地裁(令和5年10月19日)判決


◇事件の概要◇

本件は、被告との間で雇用契約を締結して就労していた原告が、被告による解雇は無効であるとして、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の賃金及び毎年7月及び12月に支払われるべき賞与並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。


◇判決◇

原告の請求をいずれも棄却する。


◇判例のポイント◇

<ポイントの不正利用>

【被告の主張】

(ア)原告は、総務部に勤務していた平成30年4月から、当時直属の上司であったB(以下「B」という。)の指示により、販売店でウイスキーを繰り返し注文した。その際、原告名義のアカウントを利用することとなったため、購入の都度、原告名義のアカウントにポイント(以下「本件ポイント」という。)が付与されていた。決済は、被告名義の預金口座から支払がされていた。
(イ)Bは、原告に対し、平成30年5月頃、ウイスキーを購入するとどれくらいポイントが貯まるのか等を質問するとともに、付与される本件ポイントは次の購入時に充当するように指示したが(以下「本件指示」という。)、原告は、質問に回答せず、本件指示を無視してウイスキーを購入し続けた。原告は、令和3年3月頃、総務部から営業部に異動したところ、その際、総務部の従業員が原告に対して本件ポイントの残高やアカウントのパスワード等を質問したが、原告は「パスワードを忘れました。」と返答し、一切引き継ぎをしなかった。
(ウ)原告は、合計23回ウイスキーを注文し、原告には22万8252円相当分のポイントが付与されていたが、これらのうち20万8006円相当の私物を購入した。

【原告の主張】

原告は、令和元年頃、Bから「ポイントがたまっているなら、次回の購入の時に使ってくださいね。」と言われたが、指示を受けたのはその1回だけである。被告において、経費支払時に付与されたポイントを還元するようなことは一切行われておらず、原告についてのみ解雇理由とすることは相当性を欠く扱いである。

【裁判所の判断】

(ア)原告は、総務部における勤務中、上司であったBから、担当業務であった酒類購入によって貯まった本件ポイントを当該酒類の購入に充てるように指示があったにもかかわらず、平成31年4月28日から令和3年6月26日までの間、酒類購入によって貯まった本件ポイントを、私用の美容用品や家電製品等の購入のために費消し、その額が20万8006円に及んだこと(以下「本件ポイント費消」という。)が認められる。
(イ)原告は、酒類購入業務によって貯まった本件ポイントを私的に費消しているところ、その使途が美容用品や家電製品等の多岐にわたることに照らすと、本件ポイントには、現金に類似する通用性・利便性があったと考えられる。すると、本件ポイント費消は、被告に対し、原告が業務上委ねられていた現預金を私的に利用することと同等の経済的損害を与えるものであって、これと同様の信頼関係の破壊をもたらすものであったといわざるを得ない。
(ウ)以上のような、本件ポイント費消の性質及び経緯、費消額及び用途並びに回数及び期間に照らすと、本件ポイント費消は、原告の被告従業員としての職務上の義務に反するものであり、本件解雇についての客観的に合理的な理由に当たるものと認められる。

<本件解雇の社会的相当性について>

【裁判所の判断】

本件ポイント費消は、その費消額が20万円を超え、また、単に本件指示に反して本件ポイントを貯めたというだけでなく、これを私的に費消しているものである。また、原告は、令和3年3月に総務部から異動する際、後任者から、酒類購入によって貯まった本件ポイントのアカウントのパスワードを尋ねられているから、その際、酒類購入業務を引き継ぐ者として、酒類購入業務による本件ポイントの蓄積状況や使用状況について、上司又は後任者に対して説明をすべき立場にあったと考えられるにもかかわらず、パスワードを忘れた旨を答えているのであって、本来行うべき説明をしなかったことが認められる。原告は、本件解雇がされる前の面談で事情聴取をされ、その際、弁償の意思を示しているが、本件ポイントを次の酒類購入に充てるようにBから指示されたことを否定しているなどの当該面談時の原告の対応ぶりに照らすと、このことを重視すべきものということはできない。
以上のとおり、本件ポイント費消の性質・内容及び経過を検討しても、特に原告に酌むべき事情があるとはいえない。

本件解雇について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものとはいえず、本件解雇は有効であると認められる(労働契約法16条)。



このエントリーをはてなブックマークに追加  
この記事を書いた
Athrunとは?