平均賃金とは、労働基準法(以下、「労基法」という)で定められている手当や補償、減給制裁の制限額を算定するときの基準となる金額です。
平均賃金は、原則として事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(就労日数ではなく、暦日数)で除した金額です。(労働基準法第12条)
1⃣平均賃金の計算が必要な時とは?
平均賃金用いられるケースは以下のような場合です。
(1) 解雇する場合の予告に代わる解雇予告手当 |
平均賃金の30日以上(労基法第20条) |
(2) 使用者の都合により休業させる場合に支払う休業手当 |
1日につき平均賃金の6割以上(労基法第26条) |
(3) 年次有給休暇を取得した日について平均賃金で支払う場合の賃金(労基法第39条) |
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(4) 労働者が業務上負傷し、もしくは疾病にかかり、または死亡した場合の災害補償等(労基法第76条から82条、労災保険法) |
※休業補償給付など労災保険給付の額の基礎として用いられる給付基礎日額も原則として平均賃金に相当する額とされています。 |
(5) 減給制裁の制限額 |
1回の額は平均賃金の半額まで、
何回も制裁する際は支払賃金総額の1割まで(労基法第91条)
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(6) じん肺管理区分により地方労働局長が作業転換の勧奨または指示を行う際の転換手当 |
平均賃金の30日分または60日分(じん肺法第22条) |
2⃣算定事由の発生した日とは?
平均賃金を求めるには、算定事由の発生した日を明確にする必要があります。各ケースの場合の算定事由の発生した日は以下のとおりです。
① 解雇予告手当の場合・・・労働者に解雇を通告した日
② 休業手当の場合・・・休業の発生した初日
③ 年次有給休暇に支払われる賃金の場合・・・年次有給休暇を与えた最初の日
④ 災害補償の場合・・・業務上負傷した日
⑤ 減給の制裁の制限額・・・減給の意思が相手に到達した日
3⃣平均賃金の計算方法は?
<原則>
事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(就労日数ではなく、暦日数)で除した金額です。
<最低保障額>
賃金が時間額や日額、出来高給で決められており労働日数が少ない場合など、総額を労働日数で除した額の6割に当たる額の方が高い場合はその額を適用します。
※過去3か月間とは…算定事由の発生した日は含まず、その前日からさかのぼって 3 か月となります。
締切がある場合締切日ごとに、通勤手当、皆勤手当、時間外手当など諸手当を含み税金や社会保険料などを控除する前の賃金の総額により計算します。
<支払われた賃金の総額とは?>
算定期間中に支払われる時間外労働割増賃金や各種手当を含む賃金のすべてが含まれ、いわゆる手取り金額ではなく、税・保険料等を控除しない賃金総額です。
<賃金の総額には含まない賃金>
① 臨時に支払われた賃金(結婚手当・私傷病手当・見舞金・退職金等)
② 3 か月を超える期間ごとに支払われる賃金(年 2 回の賞与等)
③ 通貨以外のもので支払われた賃金、いわゆる現物給与
<控除期間>
平均賃金が不当に低くなることを防ぐため、次の期間がある場合には、これらの期間中の日数と賃金を控除して、平均賃金を算定します。
① 業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間
② 産前産後の休業期間
③ 使用者の責めに帰すべき事由による休業期間
④ 育児および介護休業期間
⑤ 試の使用期間
<端数の取り扱い>
賃金の総額をその期間の総日数で除した金額に 1 銭未満の端数が生じた場合には、1銭未満の端数を切り捨てて平均賃金の 1 日分とすることができます。
そして、実際に手当を支払うときには 1 円未満の端数を四捨五入します。
ただし、特約がある場合はこの限りではありません。(通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第3条)
(例)7,000.5199円 → 7,000.51円(1銭未満、小数点以下第3位で切り捨て)
平均賃金は7,000.51円
3日分の平均賃金を支払う場合
7,000.51円×3日=21,001.53円 → 21,002円(1円未満、小数点以下を四捨五入)
支払う手当の合計は21,002円
<雇い入れ後 3 か月未満の場合は?>
算定事由発生の日以前 3 か月の期間をとって算定することができないので、雇入れ後の期間とその期間中の賃金総額で算定します。
この場合でも、賃金締切日があるときは、算定事由発生日の直前の賃金締切日から起算します。
ただし、直前の賃金締切日から起算すると、算定期間が一賃金締切期間(1 か月を下回らない期間)に満たなくなる場合には、事由の発生の日から計算します。
4⃣計算の事例
①解雇予告手当の場合
労働者を解雇予告期間 11 日を与え解雇予告手当 19 日分を支払って解雇する。
解雇予告日:3 月 20 日
解雇日:3 月 31 日
賃金締切日:毎月 15 日
賃金支払日:当月末日
賃金:時給制
賃金計算期間 |
左の期間の歴日数 |
左の期間の実労働日数 |
賃金総額 |
12 月 16 日~1 月 15 日 |
31 日 |
15 日 |
328,000 円 |
1 月 16 日~2 月 15 日 |
31 日 |
23 日 |
289,400 円 |
2 月 16 日~3 月 15 日 |
28 日 |
20 日 |
278,920 円 |
合計 |
90 日 |
58 日 |
896,320 円 |
(1) 原則の算式
算定事由発生日(労働者に解雇通告が伝わった日)の直前の賃金締切日から遡って 3 か月間に支払われた賃金総額を、その期間の総日数で除す。
(賃金総額)896,320円/90日 = 9,959.111・・・・・ 9,959.11円 Ⓐ (1銭未満切り捨て)
(2) 最低保障額の算式
時給制の労働者なので、賃金総額を総労働日数で除した 6 割となる。
(賃金総額)896,320円/(総労働日数)58日×60/100 = 9272.275・・・・・ 9,272.27円 Ⓑ (1銭未満切り捨て)
Ⓐ 9,959.11 円>Ⓑ 9,272.27 円なので、平均賃金は 9,959.11 円
支払う解雇予告手当 9,959.11 円×19 日= 189,223.09・・・・・189,223 円(1 円未満四捨五入)
②雇入後の期間が短い者を減給制裁する場合
5 月中に 3 回、事業場に連絡することなく遅刻をしたので、就業規則に定めた手続きに基づき、平均賃金の 1 日分の半額の減給制裁を、6 月 10 日支払いの賃金で実施する。
入社日:4 月 10 日
減給制裁を行うことを本人に伝えた日:6 月 3 日
賃金締切日:毎月末日
賃金支払日:翌月 10 日
賃金:日給月給制
平均賃金の算定期間の取り方 制裁の意思表示が伝わった日の直前の締切日から遡るが、算定期間が3箇月に満たないので、入社日以降を算定期間とする。
賃金計算期間 |
左の期間の歴日数 |
賃金総額 |
備考 |
4 月 10 日~4 月 30 日 |
21 日 |
173,620 円 |
日割した賃金額 |
5 月 1 日~5 月 31 日 |
31 日 |
289,415 円 |
遅刻分控除後金額 |
合計 |
52 日 |
463,035 円 |
|
(賃金総額)463,035円/52日 = 8,904.519・・・・・ 8,904.51円 (1銭未満切り捨て)
平均賃金は 8,904.51 円
平均賃金 1 日分の半額 8,904.51 円÷2= 4,452.255・・・・・4,452 円(1 円未満四捨五入)
減給の上限は 4,452 円
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